[ARTLIFE 実例集]「アート」と「安らぎ」の最高の関係-旅館・板室温泉 大黒屋(栃木県)
「アート」と「安らぎ」の最高の関係-旅館・板室温泉 大黒屋(栃木県)
「現代アート」と「温泉」。
この一見結びつきにくい組み合わせにより、独自の魅力をもつ温泉宿があるのをご存知ですか?
そこは栃木県の那須塩原にある、板室温泉郷。
自然豊かな山里にあり、歓楽的な要素のないこの静かな温泉地に、その旅館はあります。
その旅館にはカラオケルームや宴会場も無く、騒がしい団体客もいません。
取り繕うような余計な装飾もなく、必要以上に手厚いサービスもないのです。
でも、なんとリピート率7割を超える人気宿なんです!
いったいどのような秘密があるのでしょうか?
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「保養とアートの宿」
栃木県の板室温泉郷にある温泉旅館「大黒屋」は、創業463年。
1985年に、現社長・室井俊二氏が大黒屋16代当主となり、以来「保養とアートの宿」をキーワードに宿を再興させ、なんとリピート率7割を超える人気宿 となりました。
アートを活用した独自の旅館経営は「アートスタイル経営」と呼ばれ注目を集め、 メセナアワード2005の「アートスタイル経営賞」を受賞。
この他にない経営スタイルは、海外からも注目を集めています。
「旅館はジミがいい」
これが、大黒屋の考え方。
ジミは「地味」であり「地美」、そして「自美」へとつながっていきます。
「美しいは与えられません。自分の体の声に耳を傾けてみる。
静かに自分自身と話してみる。
すると、今必要なものが見つかるかも。
疲れた体を癒すために必要なのは自分の治癒力を活かすこと。」
保養をキーワードに考えると、アートは主役ではなく、訪れた人が心からの安らぎを感じるための最良の手段といえるのかもしれません。
「保養」は、外からやってくるものではなく、自分の中で起こる変化。
だから、自分自身に備わる治癒力を最大限に引き出せる環境を、大黒屋は提供してくれます。
大黒屋では、華美な装飾や過度なサービスはありません。
その分、地のままで味わい深い時間を過ごすことができる、本当の意味で「心休まる」旅館なのです。
写真は、玄関のれん作品「耕風」。これもアートなんです!
大黒屋には、こんな思いがけないところでアートに出会う面白さもあります。
他にも、屋根の雪止めをアーティスト(菅木志雄)に依頼した「集天呼風」という“作品”など、建物の一部が作品になっているものも。
アートを正面から眺めるだけでなく、作品によっては触れてみたり、くぐってみたり、使ってみたりできるのも、大黒屋ならでは。
そんなアートの数々が空間に溶け込み、知らない間に感性に働きかけてくれます。
美術館に行き、かしこまってアートを鑑賞するのとは違い、
また敷居が高く感じられるギャラリーで、緊張しながら鑑賞するのとも違う。
ここでは浴衣を着てくつろぎしながら、至る所で作家の息づかいを感じることができる。
そしてリラックスした状態の中で、本物のアートが心地よい緊張感をもたらしてくれる。
大黒屋は、普段は体験することのできない、特別な時間を提供してくれる唯一無二の旅館です。
なんと大黒屋には、美術館もあります。
その名も「倉庫美術館」。
もの派・菅木志雄(すがきしお)の作品のみを収集展示している、世界で唯一の美術館です!
同旅館発行の書籍に「菅木志雄作品は禅に通じる」というタイトルのものがあるのですが、そのタイトルを見て、深く共感する人は多いはず。
菅木志雄の作品には、作品の周りの空気や温度まで一変させてしまう、不思議な力があります。
また、すべてを受け入れる包容力も。
これは、実際に作品と対峙してみないと、わからない感覚かもしれません。
自然溢れる環境の中で温泉に癒された後、菅木志雄作品の前で、少しの緊張感に包まれる。
すると、普通ではなかなか味わうことのできない、不思議な安らぎを感じることができます。
華美な演出やおもてなしをされるよりも、これこそが本当の贅沢!といえるのかもしれません。
そんな大黒屋では毎年、現代アートの公募展も実施しています。
メセナアワードで賞を受賞した翌年2006年から始まった「大黒屋現代アート公募展」。
旅館が公募展を主催するなんて、やっぱりすごい!
温泉旅館が現代アートの公募展を行うのは、もちろん日本初の試みです。
当初は「山奥で現代アートの公募展なんて・・・」と言われていたものの、初回から400点近い応募があり、今では若手アーティストの新しい登竜門として注目されています。
大黒屋の公募展は賞を決めて終わりではなく、受賞者にはその後も、個展の開催やプロモーション活動の手助けなどを継続して行っているとのこと。
大黒屋は、温泉旅館でありながら、若手アーティストを育てる場でもあるのです。
ここには、単に癒しの空間作りのためにアートがあるのではなく、アートへのもっと強い意志と思い入れがある。
大黒屋のアートとの関わり方には、旅館や経営などという枠を大きく超えて、「生き方」にまでつながっているように感じずにはいられません。
アート好きなら一度は行きたい!
「ジミ」だけど、心からの安らぎがある、魅力あふれる旅館。
今年は大黒屋で、これまでにないアート体験をしてみませんか?
おすすめです!!
大黒屋のアートを活用した独自の経営スタイル「アートスタイル経営」について、詳しく知りたい方は、下記の関連書籍をご一読ください。 ※感動します。
《関連書籍》
『客はアートでやってくる』(山下柚実著、2008年、東洋経済新報社)
『感性論哲学からのアプローチ 進化するアートスタイル経営』(山本英夫著・室井俊二監修、2010年、静岡学術出版)
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板室温泉 大黒屋
〒325-0111
栃木県那須塩原市板室856番地
TEL:0287-69-0226 FAX:0287-69-0497
2014年04月01日掲載
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