【アート写真の魅力とは?】柿島貴志さん(POETIC SCAPE代表)に聞きました!
【アート写真の魅力とは?】柿島貴志さん(POETIC SCAPE代表)に聞きました!
中目黒にあるフォトギャラリー「POETIC SCAPE」オーナーの柿島貴志さんに、写真の魅力や写真を楽しむコツなどについてお話を伺いました。
―柿島さんは「写真作品を買う」ことをもっと身近にするための企画として「photo marché(フォトマルシェ)」を立ち上げられましたが、始められたきっかけは何だったのでしょうか?
photo marchéは、もともとは写真家の村上将城さんから、名古屋で写真を盛り上げたいという話をいただき、2010年に名古屋でスタートしたイベントです。今年1月に、東京で4回目が終了しました。
基本的にはギャラリーで取り扱いのある写真家のコレクション展なのですが、コレクション展よりは「マルシェ」という方が、気軽に入りやすいのでは、と思い「photo marché」という名前にしました。
―写真を買うことの間口を広げるということを意識されているのですね。
一般の方にとってギャラリーはどうしても敷居が高いですし、写真のことはよく分からないから入りずらい、という方も多いです。写真を好きなのは、20~40代と比較的若い世代の方が多いのですが、若い世代は堂々とギャラリー入りずらい年齢でもあるんですよね。
ちなみに、写真を買うのは男性が多いというイメージをお持ちの方も多いようですが、うちのギャラリーでは、展示している作家も半分女性で、いらっしゃるお客様も女性が結構多いです。お客様はどちらかというと、既存のコレクターの方より、これから写真を買っていきたい、という方が多いですね。
そういう方に、もっと気軽に、身近に写真を楽しんでもらいたいと思っています。
―写真作品を購入した方からは、どのような反応がありますか?
これまで、このギャラリーを始める前にも、家具屋さんやカフェギャラリーなど色々な場所で写真作品を取り扱ってきましたが、返品は一度もないんですよ。逆にお礼状をいただくこともあります。
うちのギャラリーで初めて写真を購入するという方も多いのですが、購入された方からは、「生活が変わった」という声を聞くことが多いですね。
普段生活している空間に写真作品があるだけで、もちろんインテリアの雰囲気もがらっと変わりますし、何より毎日アート作品を目にすることが、心の満足や豊かさにつながるのではないかと思います。
―写真作品の魅力や鑑賞のコツなどを教えていただけませんが?
鑑賞は、基本的には見たままで良いと思っているのですが、写真には一般的に思われているより、すごく幅広い表現方法があります。
単に「綺麗」「技術がすごい」というような分かりやすい基準だけでなく、近年はさまざまな表現方法が生まれ、作品が複雑化してきていて、鑑賞に説明が必要な作品も多くなってきました。
デジタルが出てきたことも大きいと思います。写真とはこういうものだ、と断言しにくくなりましたね。
それに今はカメラの性能も高くなったので、よりコンセプトや作家独自の見方が問われる時代になっています。
「写真を見る」のではなく、「写真を読む」時代になった、とよく言われますね。
そうした作品を鑑賞する際は、やはり作家からの説明があった方が、より深く鑑賞できる場合が多いと思います。ただどうしても、ギャラリーに作家が常駐していないことが多いのが実情です。
POETIC SCAPEでは企画展開催中、毎日ではありませんが、作家本人が度々ギャラリーに来ますし、作家がいないときは私が極力説明をするようにしています。
―絵画作品と写真作品の違いは何だと思われますか?
どんなに多種多様な写真作品が生まれているといっても、写真は現実の目の前にあるものを写すということが基本のメディアです。結果、どうしても社会や現実が入り込んでしまうものなので、たとえば家の中で絵を描く行為とは、だいぶ性質が違うと思います。
そんな中で、コンセプチュアルな要素を取り入れることもでき、美術的な文脈も踏める。もちろん見た目の美しさも追求できる。
良くも悪くも、写真はちょっと複雑で、そこが面白いところでもあります。
でも鑑賞の仕方は、他のアートと全く一緒でいいと思いますよ。
―他のアートのジャンルにはあまりない傾向として、写真においては「写真集」がとても重要とされていますよね。
そうですね。写真集は、他の絵画等における作品集とは、大きく位置づけが違います。「写真集そのものが作品」という感覚がありますね。
写真家も、目指すべき頂点を写真集としている方が多いですし。
特に日本の場合は、壁にかける一枚ものの写真より、写真集のほうが伝統的に強いです。1点よりも数十点で、魅せる・何かを伝えるという文化がある。
いま世界的には日本の写真集がブームなんですよ。日本の写真集は独自の発展を遂げていて、造本技術や印刷技術も素晴らしいし、仕事が細かく、完成度がとても高い。
また、写真集をつくるために写真を撮っているという写真家も多いので、コンセプトもしっかりしていて、そもそものクオリティーが高いんです。
―それは知らなかったです!他にも写真の世界において、世界のトレンドなどはありますか?
世界的に、今ポートレートが売れているとよく聞きます。
日本ではポートレートは売りにくいと言われていますが、それは家に知らない人のポートレートを飾るのは抵抗があるということだと思います。しかし作品として流通しているポートレート写真は、単なる誰かの顔写真ではなく、作家の深い思想を伴っているものです。注目のジャンルです。
―なるほど。そして額装のプロフェッショナルとしても信頼の厚い柿島さんですが、額装についてはどのような想いがありますか?
私はよく額装のことを「ちゃんと服を着せる」と言っているのですが、部屋等に飾る場合、写真作品は、額装までしてようやく完成、というところがあります。キャンバスと違い、写真はペラ1枚ですから。
コレクターの方は、所有を出来ればシートのみでいいという方もいらっしゃいますが、どちらかというと、作品を暮らしの中で楽しむということを提案していきたいと思っているので、そのためには額装はとても重要だと思っています。
作品が手元にあるのに、「額がまだだから」といってずっと飾れずに10年眠っている…というような話もよく聞きます。皆、額は買おうと思えばすぐに買えると思って先送りにしているところがあるんですよね。それではもったいないですよね。
―でもいざ自分で額装してみたら、せっかくの作品が何だかイマイチに…なんてこともありますよね(汗)。特に写真の額装は、ちょっと難しいというイメージがあります。
普段額装を意識していない方が理想的な額を用意するというのは、なかなか難しいですよ。
そもそも日本人は額を扱うことに慣れていないですし。多くの方が通る額装の体験は、学校などでもらった賞状を飾るときぐらいじゃないでしょうか。でも賞状はしっかりと規格があって、必ずぴったりはまるようになっていますから、苦労はしないのですが…。
特に写真は、絵画などと違い「号」という概念がないので、さらに複雑です。
一般の方がいざ額を用意しようと大手販売店に行っても、カウンターではなかなかじっくりカウンセリングできないですし、作品に適した額を決められないことが多いと思います。
私自身、お客様と額を決めるとき、大抵の場合、最低1時間はかけて話し合っています。マットを付けるかどうか、プリントの地の白を何mmにするか、材質はどうするか…など、決めるべき項目がたくさんあるんです。
慣れていない方にはなかなか難しいと思うので、額装に関しては、まずはプロ(ギャラリー)に相談するのがいいと思いますよ。
―とても勉強になりました。 柿島さん、ありがとうございました!
取材に伺った際は、伊丹豪さんの個展の会期中で、作品について柿島さんに1点1点解説をしていただくことができました。お話を聞いて初めて気づく作品の面白さ、かっこよさがあり、何度も目からウロコが・・・。
これまで知らなかった写真の魅力をたくさん発見することができました。
POETIC SCAPEは、写真の面白さを知るきっかけをくれる、初めての方でも気軽に入れるギャラリーです。
写真に興味はあるけど詳しくないし・・という方も大丈夫。一度気軽に覗いてみてくださいね。
※展覧会のスケジュールをご確認の上、足をお運びください。
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柿島貴志さん
〔プロフィール〕
英国Kent Institute of Art and Design卒。帰国後はフォトエージェンシーやアート関連企業勤務を経て、2007年に photta-lot(フォッタロット)を設立。以来、写真の展示企画や販売、写真の額装、ワークショップ等を行う。2011年、ギャラリー POETIC SCAPE(ポエティック・スケープ)を東京中目黒にOPEN。ディレクターとして写真展の企画運営を手がけている。
2014年04月08日掲載
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