[ARTLIFE 実例集]かつてアーティストが交流した町・国分寺のアートスポット「丘の上APT(アペテ)」
かつてアーティストが交流した町・国分寺のアートスポット「丘の上APT(アペテ)」
ここは、国分寺駅から10分ほど歩いた丘の上。
近くには、親子連れでピクニックができる公園があり、とてものどかな雰囲気の場所です。
風が吹き抜け、緑の谷が一望できるこの場所に、一風変わった建物がありました。
外から見ると、全体がメタリック!
でも不思議と周りの雰囲気になじんでいます。
この建物の名前は「丘の上APT(アペテ)」
六本木にあった兒嶋画廊が移転し、今年4月に、ここ国分寺にオープンしました。
一歩中に入ってみると、外観とはうってかわって、木のぬくもりが溢れる温かみのある空間が広がっていました。
入り口の方は天井が低め、奥に行くにつれて天井が高くなっていくという、面白いつくり。
聞くと、この建物には「圧縮と解放」というテーマがあるのだとか。
(APTはArt PerspectiveTextileの略)
建築を担当したのは、自然の素材を建物と調和させる独特のスタイルが有名な、国分寺在住の建築家・藤森照信さん。
同氏は、タンポポハウスやニラハウス(※)というユニークな家を建てたことでも知られています。
入り口側から奥を眺めると、奥に向かってだんだん空間が広がっていき、奥にはロフトが。
天井にはバーナーで焼いたという味のある黒いベイマツが何本も横に渡り、その間にうまく照明が取り付けられていて、ぬくもりのある明りを照らしています。
壁には近現代絵画、タペストリー、古布などがやさしく調和しながら展示されていて、山の中のコテージに来たような、ほっとする感覚を覚えました。
裏から外に出てみると、そこにはゆっくりくつろげるテラスがあり、夜に外に出てここでお酒飲むこともあるのだそう。
想像しただけで、幸せな気分。
思わずため息が出ます。
お伺いした日は、国分寺の「ギャラリーうぉーく」というイベントの日ということもあってか、地域の方々が集いにぎわっており、画廊というよりコミュニティスペースといった印象でした。
さて、この丘の上APTのオーナーは誰かというと、日本を代表する洋画家・兒嶋善三郎(1893─1962)の孫にあたる、児島俊郎さんです。
「最初は祖父と同じ絵描きになりたいと思っていました。でも幸い絵が下手で(笑)。
もしデッサンがうまかったら、美大に行って、つまらないガキになっていたかもしれない」 と俊郎さん。
俊郎さんは、1981年に青山に兒嶋画廊をオープンした後、1997年には銀座、2004年に六本木、そして今年2014年、ここ国分寺に移転しました。
兒嶋画廊は、日本の近現代美術の他に、藍染やアイヌの織物などの工芸も扱う画廊です。
「画廊」というと、一見さんお断りの、入り口まで来てもUターンして帰りたくなってしまうような、入りにくいイメージが強くあります。
その点、丘の上APTは正反対。本当に気軽に入れるから、とても新鮮。
実は今回、子供も一緒に連れてきてしまったので、大丈夫かな、迷惑かな、とかなり心配していました。
でも子供も入っていいよと言って下さり、ちびっこたちも大喜び。
普通、アートギャラリーに、子供連れで入れません!
このオープンさ、雰囲気の良さには、理由があります。
「小さな頃から普通にアートのある空間が身近にあるというのはとても良いこと。
銀座や青山、六本木にいたころは、画廊を訪れる人はその地域に住んでいる人ではないので、子供たちが見に来ることはありませんでした。でも、住宅街であれば話は別です。
もし家の隣に画廊があって、そこに絵がかかっているのを見ていれば、子供たちは小さい頃からアートを身近に感じることができます。しかも、本物、一級品を見てほしい。
国分寺に画廊を移したことで、そういう機会をつくれればと思っています。」
と俊郎さん。
一級品の絵画に子供を近づけようという画廊は、そうそうないはず。
ただ絵を展示して売るというのではなく、人が集まり感性を育てる場所にしたい、というオーナーの想いがあるから、初めて来てもとても居心地がいいのだなと、とても納得してしまいました。
実はこの丘の上APT、国分寺に建てられたのには、とても大事な意味があるんです。
建物に入るとすぐ、俊郎さんが手作りしたという、木でできた犬のオブジェがあります。
子供たちが乗って遊んだりできる、とても愛らしい犬のオブジェ。
この素材となっている木は、画家・善三郎の絵の中に描かれている、もみじの木なのです。
ここ国分寺は、かつて善三郎のアトリエがあった場所。
当時はあたり一面、田園風景が広がっていました。
そして、俊郎さんが小さいとき、この地には様々なアーティストが集い、毎晩議論を交わしていたそうです。
アーティストの中には、赤瀬川源平(※)や吉村益信(※)もいたというから凄い。
「そういう場所で育ったから、洗礼をうけてしまいました。
酒を飲んで、喧嘩しながら連日熱い議論をして。
なんて面白い世界なんだろう、と感じてしまったんですね」
アーティストたちのゆかりの地・国分寺で、現在の芸術愛好家や地域の人々が集う場所があるというのは、とても意味深いこと。
「ここはかつて、様々なアーティストが愛した場所。みんなが集まり、この場所に来ていたということを伝えていきたい」と俊郎さん。
* * * * *
ここには、コテージのような空間に絵や古布が飾ってあるため、暮らしの空間がイメージしやすいというのも嬉しいポイントの1つ。。
ホワイトキューブとは違い、暮らしにどのようにアートを取り入れたらいいのか、そのまま感じることができます。
「コレクターの家に絵がかかっているような感じ」というその展示風景は、まさにその通りで、生活の中でアートをどのように飾ればいいのか、とても想像しやすくて楽しい!
ただ絵を壁に飾るのではなく、たとえば絵だけではなく、歴史のある布を額装したものと組み合わせてみたり、古布のタペストリーを飾ってみたり。
こんな形で楽しめばいいんだな、というのが分かって、とても参考になり、わくわくしてきます。
古布は、作者がわからないものが多いそうですが、そんな古布を扱う俊郎さんには、
「アートは高級なものでお金持ちのもの、ということではなく、名もない人が創ったものも分け隔てなくアートとしてとらえる」という思いがあるのだそうです。
かつて民芸運動を主導した柳宗悦(※)が、生活に即した民芸品に注目して「用の美」を唱えたように、「美術」として崇められていないものに対しても価値を見出す心に、とても感銘を受けました。
「日本では昔から、そこかしこに神様がいると考えられているけれど、そんな感覚で、どこにでもアートがあると思う」と俊郎さんは言います。
お話を聞いていて、そしてこの空間に身を置いて感じたのは、
アートは特別なものというよりも、暮らしの中で、衣食住などのいろいろな営みの中に溶け込む不可欠なもの、
ということでした。
アートだからといって肩肘張らずに、純粋に楽しむことができる場所。
オーナーの俊郎さんの想いが、このような心地よい空間を作っているのだと実感します。
そして、古いもの、長い年月を経てきたものに囲まれているせいか、とても自然体でいられます。
いろいろなものを受け入れてくれる包容力を全身で感じ、とてもリラックスできました。
心地よい風が吹き抜ける丘の上APT。
晴れた日に訪れるのがオススメです!
おまけ:丘の上APTの隣には、俊郎さんのご自宅
通称「チョコレートハウス」があります。
何とも美味しそう!こちらも一見の価値ありです。
2014年05月28日掲載
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