ケア空間にアートが必要だった理由とは?
静岡初!改修でのサービス付き高齢者住宅が今月2月1日にオープン!
限られた予算の中でベストを尽くさなければならない正念場で“アート”を活かしたケア空間が話題になっています。まるでプチ美術館!?
アートのある暮らし協会が、注目の現場を取材いたしました!
“福祉の現場にはアートを!” という願いを叶えてくれる アートライフスタイリスト として、ご活躍されている山梨県在住の インテリアコーディネーターの飯塚奈津子さん
アーティストの庭野さん
株式会社東海ビルメンテナスグルーブ
リバティ東海ケアサービス
介護事業部事業部長の川手寅平さん
そして、
株式会社東海ビルメンテナス静岡事業本部事業本部長影沢孝行さん
にお話を伺いました。
<インタビュアー>
アートのある暮らし協会
代表理事 枝澤佳世
ビルメンテナンス会社から介護事業へ参入!?
Q.
-どうしてビルメンテナンス業界から介護事業へと参入しようと思われたんでしょうか?
我々の会社、株式会社東海ビルメンテナスグループは、ビルメンテナンス会社がベースになっています。
昭和38年に静岡に支店を設け、賃貸物件で営業をしていましたが、平成2年にこの地にご縁があり自社ビルを建てました。
1階は駐車場。2階は事務所。3階〜6階は賃貸マンションでした。
この度、介護事業所として、このマンションを、どういう風に有効利用していくのか?という話が出て“サービス付き高齢者住宅”にすることになったんです。
従来は、国が主体となって、特別養護老人ホーム、老人保健施設を作ってきたのですが、近年ではそういった、国が施設を作らなくなってきている、作れなくなってきているんですね。
“共生”とか、いろんな言葉が出てきていますが、地域の中で、できれば在宅に近い状況の中で高齢者に生活をしていただく。というのが現在の厚生労働省の考え方です。
その考えの背景には、“地域社会”との関わりを持ちながら、最期を迎えられるという高い理想が掲げられている側面と国の財政上の問題、という2つの側面があります。
在宅ないし、在宅に代わるものとして「サービス付き高齢者住宅」と、従来の施設との大きな違いはまさにそこになります。
「サービス高齢者住宅」はあくまでも高齢者向けの賃貸アパートです。
今後は求められるニーズがこういうものに、シフトしていくだろうと思っています。
今話題の、“サービス付き高齢者住宅”って何?
Q.
-サービス付き高齢者住宅の魅力とはなんでしょうか?
私は、過去にサービス付き高齢者住宅を、山梨県内で6~7件ほど作ってきました。
しかし、どうしても“入所施設”みたいな感じになってしまうんですよね。
家族が来る時にも、まずは共用玄関のところで署名してから入らないといけない、みたいな…
しかし「サービス付き高齢者住宅」って、本来はそんな感じではなくて、自分たちの自宅なので、家族は自由に出入りできていいはずなんです。
家族が泊まろうが、いつ来ようが、自由。
「何号室のご家族が来られていますが、宿泊されるんですか?」
そんなの大きなお世話ですよね。
しかし、その分セキュリティはしっかりしないといけないので、セコム、ALSOKなどとも提携を結んでいます。
もちろん防犯カメラも設置する必要があります。
どんなことがあるか分からない世の中なので、安心して生活ができるような場所を提供しようと思っています。
Q.
-反響のほどはいかがでしたか?
4階は、来月から入居したいという方ですでに埋まっています。
ありがたいことに、大した宣伝はしてないのに、ケアマネージャーからの口コミの紹介などでどんどん埋まっている状況です。
「元気なうちから移り住みたい。」そういう要望が多いです。
「自宅の改装をするなら、コンパクトなところに移り住んじゃった方がいいんじゃないのか?」という考え方も進んできています。
Q.
-静岡市では、改修でサービス付き高齢者住宅は初めてだそうですね。
そうなんです。
飯塚さんには、スタートのコンセプト作りから会議に入っていただきプロジェクトを進めました。
そこからなんと1年がかりの仕事になりました。
いつもテーマに沿って、温もりのある空間に仕上げていただいています。
先日の竣工式もとても評判がよくて。
ご近所の方達20名くらいに来ていただいたのですが、無機質な空間だったものが柔らかい印象になったと非常に褒めていただきました。
しかし、おそらく今回の現場は、飯塚さんご自身は満足度65%くらいだと思います(笑)。
空間を作るにあたっては、どうしても予算という壁がありますので。
低予算の中で、素晴らしい空間を作っていただいたと感謝しています。
今回は、スタッフさんが早々に決まりましたよね?
おかげさまで!
普通なかなか決まらないんです。建物はあっても肝心なスタッフが決まらないということが多いです。
スタッフが今回は本当に良い方たちに集まって頂き、非常によかったと思っています。
事業ありきで先に走っちゃうと、その辺りがどうしても追いつかなくなるんですよ。
川崎で起きた事件もそうでしょ?
結局、施設展開を建物ありきで先行してしまって、スタッフが集まらないことで、そのしわ寄せがいってしまったと思うんです。
これからの共存共栄という考え方の中で、スタッフが生き生きと働けるような事業所作りが、とても大切なんだと思います。
オープニングスタッフに長く勤めていただけること
スタッフに職場への誇りや、自信を持って働いてもらうことが、口コミで施設自体の評判に繋がっていくんだと思うんです。
スタッフがストレスを抱え、いつやめようかと求人誌を読んでいるようだったら、そんなところには大切な家族を預けられない。
何が起こるかわからないですよね。その点がとても大事かなと思っています。
じっくり考えて、ニッチな部分の要望をしっかり掴んでいけばいいと思いますね。
今回のキーワード「ユマニチュード」とは?
Q.
-今回のキーワード「ユマニチュード」とはなんでしょうか?
「ユマニチュード」はフランスから来た一つのケアの方法です。
最近日本に入って来ました。
「ユマニチュード」を日本でも取り入れたことによって、看護やケアが変わりました。
例えば、特別養護老人ホームに入居していた方が、骨折してしまい、病院に入院したとしましょう。
いきなり違うところに移されると、「ここはどこ?私はだれ?」という状況になりかねませんよね。
また、家に帰りたくて仕方ないのに、病院のベッドに拘束された状態で
大きなマスクをした見知らぬ人が、上から覗いてたなんてどう思いますか?
もちろん医療を施す側は、感染しないようにマスクをされているんでしょうけど…
部屋に入って来るときも、「どうですか?入ってもいいですか?」と声をかけるのが普通でしょ。
自分の家や部屋に、勝手に人が入って来たらどう思いますか?
そういうのを、平気でやってきてたのが今までの医療機関なんです。
そういうのを変えていこうというのが、「ユマニチュード」の考え方。
難しいことを言っているのではなくて、人と人の接し方というのは、医療の現場だろうが、介護の現場だろうが、生活の場だろうが
大事であるということを教えてくれる手法だと思っています。
ユマニチュード(Humanitude)とは、知覚・感情・言語による包括的コミュニケーションに基づいたケア技法です。 フランス語で「人間らしさ」を意味する「ユマニチュード」には、「人間らしさを取り戻す」ということも含まれています。
https://www.azumien.jp/contents/method/00035.html
「ユマニチュード」から作ったコンセプトとテーマ
Q.
-どうやって今回のコンセプトとテーマを決定していったのですか?
「ユマニチュード」を私なりに理解して、そこからテーマに落とし込んでいきました。
テーマは、「柔らかなあたたかさに満ちる」
コンセプトは、「優しさと絆にあふれたケア空間」
カラースキームは4色。
オレンジ系、青系、赤紫系、黄緑系のテトラード配色としました。
親しみやすさを感じるオレンジ系(床や建具など)をベースにすることで
安心感を与えられます。
また安定感も感じますし、2組の補色同士の色なのでカラフルな配色となり
楽しげな雰囲気も出せたと思います。
これは「サ高住」のほうもすべて含めて、同じ考え方でコーディネートしています。
どのようにしてアートを入れたていったのか?
Q.
-アートを入れることになったきっかけは?
最初から何かアートを入れたいとご提案していました。
今回のテーマを表現出来るようなアート。 そのご提案には倉田社長も賛同してくださったのですが
当初は立体のものをエントランスにどうかな、と考えていました。
ですが、コンセプトをお伝えしたところ、事業本部長の影沢さんが、アーティスト庭野さんを御存じで
「飯塚さん、地元で活動されているこのアーティスト(庭野さん)と一度お会いしてみてください。今回のコンセプトとイメージが合うかもしれません。」
とおっしゃっていただいて。
アーティストの庭野さんと話をしていく中で方向性が決まり、今回のアートを取り入れるプランが即採用となりました。
最初は入り口に数点、とも考えていたのですが、
庭野さんの作品ならお部屋の中までつなげていった方が良いのではないか、と思いました。
「アートがこんなに採用されているデイサービスなんて他にないですし!」とさらにもう一押しして(笑)、結局9点入れていただくことになりました。
ご予算を抑えたいというご要望もあったので、難しい面もあったかと思うのですが
アートを入れることで、逆に予算枠を上げていただいたんですよ!びっくりです!
やはり、こちらの社長様がアートへの理解があることが、素晴らしかったと思います。
Q.
-アーティストの庭野さんのことについてお聞かせください。
庭野さんは、イメージで絵を描くことが得意なアーティストです。
スターバックスのタンブラーのデザインもされていますし、静岡茶とか地元の商品のデザインも手がけられ、地元で愛されているアーティストです。
今回、庭野さんにもコンセプトをお伝えし、一緒にイメージを共有していただきました。
9点の作品は、ストーリーになって全部が繋がっているんです。
まず玄関先には、明るいイメージで、利用者を暖かく迎えるような作品を飾りたいと考えました。
グリーン(植物)を使って、全体を包み込むメッセージをつけ、タイトル「愛おしくあるもの」とした作品を作っていただきました。
大きさはあえて大きくしませんでした。
Q.
-庭野さんは、普段、どんな技法を使われているのですか?
私の技法は、クレヨンです。
今回は場所の特性から、一度紙に書いて、その後に布に転写してファブリックボードに加工する方法で入れました。
軽いし、壁に負担にならないし、埃を払うだけでいいし、危なくない。
なるべく、クレヨンの質感や風合いが出るように意識しました。
人が行き来が多い部屋に入るまでの通路は、この施設のコンセプとのイメージを感じ取っていただくスペースにしました。
あったかい気持ちを印象付けるオレンジで、全て統一しています。
光、音色(人との繋がり)、心(その真にあるもの)というテーマの3点です。
続きまして、一番最初にお話を頂いた時に、このお部屋がメインになると伺っていました。
- 気持ちが温かくなるもの
- つながるもの
- 心を温めるもの
- 気分を感じるもの
が4つのテーマになっています。
“直接触る”ということも大事なんですが、“直接気持ちに訴えかける”とか、心に光が差すような
思い出した時にふわっと温かい気持ちになるようにイメージして作りました。
ピンク:膨らむ心。気持ちが膨らみながらあなたを見守っています。
イエロー:丸ごと受け止める。希望。あなたのこともすべてのことも包み込む。力強く優しい。
グリーン:見守る存在 君と一緒にいるよ。距離感で孤独じゃない。
ブルー:包み込むもの こちらから手を差し伸べるようなイメージ。
をイメージして制作しています。
Q.
-制作時間はどれくらいかかりましたか?
飯塚さんと、部屋のサイズを測り、大きさを決め、共有したコンセプトを自分の中で落とし込み、広げていきました。
構想には3ヶ月をかけて、制作は一気に1ヶ月で仕上げました。
Q.
-ご苦労されたところは?
図面を見るのがはじめてだったので、子供頃のおままごとみたいに、この部屋はどんな場所ですか?
と伺いながら作っていきました。
図面上でしかイメージできないのはきつかったです。
Q.
-この包帯をしている天使が気になります。
「完璧な存在、全部元気です。」というイメージではなく
ちょっと弱さがあっても、繋がれることがあるという意味合いのモチーフです。
「誰だって完璧ではない。」ということのメッセージを伝えたかったのです。
Q.
-天使はよくモチーフにされているのですか?
昔からよく描いていました。自分で怖くなるくらい天使を描き続けていた時もありました。
天使はわかりやすい、じゃないですか。
なので、これまで表現を抑えてきてたんです。
しかし、今回なら、隠そうとしていた自分を出していいかもと思い、思いっきり天使を描きました。
ケア空間に、アートが必要だった本当の理由とは?
Q.
-今回、アートを入れた理由をうかがわせてください。
影沢さん
一つは、介護される方もほっと安心できる。
ここにもう一度いきたい。と思ってもらいたい。そんな気持ちがありました。
また、私たちが後追いでの異業種から参入でしたので、他と違うこともやっていかなければならない。
という気持ちもありました。
おかげさまでSNSで内装をアップした時には、“美術館のようだ。”という反響をいただき嬉しかったです。
ここまで素晴らしい仕上がりになるとは思わなかったです。
アートを通じて、異業種の方と仕事をする魅力。
人と創りあげることで広がる。繋がれなかった人とつながれる。
人と人をつないでくれるのもアートの魅力。そして、新しいものが生まれるのだと思います。
庭野さんのおっしゃるとおりだと思います。
アーティストやクリエイターがインテリアデザイナーや設計担当の下に入るのではなく
関わる人たちが初めから一緒に作っていくというスタイルが当たり前になっていくと、よりいいものが生まれると思います。
そして、クライアントの理解が何より重要です。
アーティストと作り上げていく仕事、コミッションワークは本当に楽しかったです。
今回は、というか今回に限ったことではないですが、インテリアといっても決まった中でやらないといけないことも多く、残念ながらほとんど選べないものもありました。
壁もないので魅せられないし、という中で、逆にアートと色使いに集中できました。
アートがあるだけで、すごく意図していることや、意味があることが伝わりやすい、とあらためて実感しました。
介護事業を始めるには、 “地域の理解を求めていくこと”、そして、“働くスタッフの質を確保すること”など、いかに難しく、いかに大事か。
そのたゆまぬ努力をしていくことが健全なる介護事業の存続につながっているのですね。
庭野さんのアートを選ばれた理由も、アートをこの施設に入れられた理由も、その課題を解決する一助になっていることを確信しました。
地域、家族、入居者、働く人、事業者、違う立場の人間が「共生」する場を作る。そこに、“アート”が活かされています。
きっとたくさんの方々の愛情に溢れた温もりのある憩いの場になることでしょう。
このような福祉施設が日本中に増えていきますように。
本日は、とても勉強になりました。貴重なお話をありがとうございました。
INDEX
・ビルメンテナンス会社から介護事業へ参入!?
・今話題の、“サービス付き高齢者住宅”って何?
・今回のキーワード「ユマニチュード」とは?
「ユマニチュード」から作ったコンセプトとテーマ
・どのようにアートを入れたのか?
・ケア空間に、アートが必要だった本当の理由とは?
ケア空間にアートを導入したい方は、是非アートライフスタイリスト飯塚奈津子にお問い合わせください。(お問い合わせ内容に飯塚奈津子とご記入ください)
「アートの力」は、介護の現場だけでなく、様々なシーンで社会に活かされています。 当協会では、アートの力が活かされている様々な事例を「アートライフスタイリング入門講座」で、お伝えしています。 是非、 聞きにいらしてください。 あなたのビジネスやライフスタイルにアートを活かすヒントがみつかるはずです!
2019年04月01日掲載
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