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artist/インタビュー

【アートのある暮らしの魅力とは?】アートコレクター石鍋博子さん(ワンピース倶楽部代表)に聞きました!

【アートのある暮らしの魅力とは?】アートコレクター石鍋博子さん(ワンピース倶楽部代表)に聞きました!

「最低一年に一作品(ワンピース)を購入することを決意した、アートを愛する人達の集まり」である、ワンピース倶楽部(非営利団体)。その代表を務める石鍋博子さんのご自宅にお伺いし、アートと暮らす生き方の魅力などについて、お話をお聞きしました。ご自宅には、たくさんのアートが飾られていました。

【アートのある暮らしの魅力とは?】アートコレクター石鍋博子さん(ワンピース倶楽部代表)に聞きました! 石鍋さんのご自宅。廊下の壁にもアートが並ぶ。

―2007年にスタートし、今年で7年目となるワンピース倶楽部。
 そもそも立ち上げられたきっかけは何だったのでしょうか?

元々アートに興味はあったけれど、美術館に行く程度でした。
ある日、知人のアーティストがドイツから帰ってきたときに、「日本にはコレクターがいないし、アートを買う人が少ないから、アートがビジネスとして成り立たない。日本で活動するのは難しい」といった話をされました。
聞けば、バーゼルやロンドン、パリ、NY、香港など、海外のアートフェアでは、世界中からギャラリーやコレクターが来てにぎわっているけれど、そうした世界のアートサークルに、日本は組み込まれていないのだそう。
その後2006年に、初めてARCO(アルコ)という海外のアートフェアに行ってみたら、やはり日本とは全く違う盛り上がりがあって。日本のアートマーケットが小さいことを実感しました。

日本でアートがビジネスとして成り立つ(=アーティストが食べていける)ようになるためには、日本人がアートを買わなければならない。それなら、日本でアートを買う人を増やそう!と思ったことがきっかけです。
それも、大コレクターを作るよりは、一人一人が数点ずつでも買うほうが日本らしいと思い、今のような形にしました。

年にアートを1つ(ワンピース)買うということが、ムーヴメントになればいいと思って。

 

―すばらしい行動力ですね!2007年当時と今では、状況は変わったとお感じになりますか?

ワンピース倶楽部を始めて今年で7年目ですが、当初の目的はある程度達成されたかな、と思います。
始めた当初はアートフェアに行ってもあまり人がいなかったけれど、今は賑わっているしね。
裾野を広げるという意味では、これまでやってきたことに意義があったと思います。

 

―ワンピース倶楽部の活動には、どのような方が参加されているのでしょうか?

【アートのある暮らしの魅力とは?】アートコレクター石鍋博子さん(ワンピース倶楽部代表)に聞きました! 野口琢郎さんの作品

始めは私の友達を集めてやっていて、その友達の友達・・という感じでクローズドでやっていました。
でも、ワンピース倶楽部では毎年8月に、会員の方が1年間で購入した作品を発表する展覧会(「はじめてかもしれない」展)を行なっているのですが、その展覧会を見に来た方が 「楽しそう!」 といって入会したりして、次第に会員が増えてきました。

ワンピース倶楽部に入る方々は、「アートを買ってみたいけれど、何をどこで買ったらいいのか分からない」という人もいれば、「買った作品を発表してみたい!」という人もいますよ。
一度作品を購入すると、それを人に見せる機会はなかなかないし、普通のコレクターの方は展示をする機会はあまりないですから。
でも展覧会では、誰が買ったかは表に出しません。自慢の会になるのは嫌だし、買った人が誰かということは、そんなに重要じゃないと思うから。
ただ、購入理由だけは書いて展示をします。

 

―それは面白いですね!他の人がどんな理由で作品を選ぶのか、普段はあまり知る機会がないですし、いろいろな発見がありそうです。展覧会の他にはどのような活動をされていますか?

ワンピース倶楽部では、ほぼ月に1度、勉強会も開催しています。
勉強会では、ギャラリストやアーティストをお招きして話を伺うことが多いです。ギャラリーも、皆それぞれとても個性的。
どんなオーナーがどんな気持ちでやっているのかを知っておくと、とても参考になるし、購入しやすいと思います。

 

―やはりアートを買うときは、ギャラリーで買われるのですね?

【アートのある暮らしの魅力とは?】アートコレクター石鍋博子さん(ワンピース倶楽部代表)に聞きました! 天井から吊り下がっているのは、栗林隆さんの作品。面白い!

そうですね。仮に時間やお金が際限なくあるのなら、世の中のすべての作品を見た上で決められるけれど、そうはいかないのが普通だから。
時間とお金に制限があるのなら、プロが厳選したアーティストの作品がある企画ギャラリーで買うのが良いと私は思っています。
企画ギャラリーで、プロの目にかなった作品の中から選んで購入すれば、少なくとも小川に通じていて、もしかしたら大流つながるかもしれない作家の作品を買うことができる。
今後の可能性がある作家の作品を買うことができるのは楽しいです。
もちろん、他で買うのも悪くはないんですけれど。

 

―ギャラリーで作品を購入するメリットは、他にもありますか?

それに作家をトータルで把握しているのはギャラリーなので、たとえばその作家の回顧展などをやるとき、ギャラリーから作品を購入していれば、声がかかったりもする。
買った後のいろいろなことを考えると、やっぱりギャラリーで買うのがいいんじゃないかな、と思います。

それに、海外のアートフェアなどに出るときは、ギャラリー単位で出展しますよね。ギャラリーがきちんと儲かっていないと、アーティストも海外に出て行けない。つまりアーティストのチャンスも減ってしまうことになります。
日本全体のことを考えたら、たとえば作家から直接購入するよりは、きちんとギャラリーで購入した方がいいんじゃないかな。

【アートのある暮らしの魅力とは?】アートコレクター石鍋博子さん(ワンピース倶楽部代表)に聞きました! なんと、お手洗いにも所狭しとアートが!

 

―なるほど。では石鍋さんが作品を選ぶ基準は、何ですか?

人の魅力です!ちゃんとしていて、情熱のある人。 
毎日作品と一緒に生活をしていると、作品の後ろには、いつも彼・彼女(作家)が登場する。そうなると、その作家が生理的にも人間的にもOKじゃなかったら、一緒に生活できないでしょ?
私は必ず、作家に直接会った上で作品を購入しています。
彼らが何をやりたくて、どこを目指すのか。それを知って、心から納得した作品を買いたいと思う。
そうしたアーティストとの出会いは、共感や驚きがあって本当に楽しい!
これまで活動を続けてこられたのは、作家の魅力があってこそ。それがなかったら、続けられなかったかもしれないな。
そういう意味もあって、ワンピース倶楽部では、ギャラリーに行くなら、なるべく初日のオープニングに行くことを薦めています。オープニングなら、作家に会えるので。

 

―「作家に会って買う」というのは、他のコレクターの方にはあまり多くない買い方ですよね。石鍋さんは、結果的にコレクションになっているだけで、一般的な「コレクター」とは少し印象が違います。

【アートのある暮らしの魅力とは?】アートコレクター石鍋博子さん(ワンピース倶楽部代表)に聞きました! 様々な作品が、不思議と調和する心地よい空間

自分のことをコレクターだとは思っていないんです。コレクション目的で買っているわけではないので。
ちなみに、「アーティストに会いたくない」という人もいますよ。本人に会ってしまうと変な情が入ってしまい、作品そのものの良し悪しが分かりにくくなるから、と。アーティストがどんな人かというより、作品がよければ良いのだそうです。男性に多いのですが。
だから「アーティストを知った上で納得して買う」という買い方は、とても女性的だね、と言われます。
そして男性のコレクターの方は、飾りたいとか一緒に暮らしたいというより、「所有していたい」という人が多いですよね。所有欲というのでしょうか。買った作品を飾らずに倉庫に保管するとか…。
男性の買い方は不思議ですよね。正直よく分からないです(笑)。

私は、飾らずにストックしておくのが嫌なので、必ず家に展示します。
日当たりの良い部屋にも作品を飾っているで、「こんなに陽に当たって大丈夫?」と聞かれることもあるのですが、私はあまり保存のことは考えずに、その作品を「今」楽しんじゃってます。
保存のことばかり考えて大事に保管しているのだとしたら、「その作品の本番っていつ?誰のために見せるの?」って思う。
もし本当に価値のある作品なら、少し傷んでしまっても、きっと後世の人が修復してくれるはず!と信じているので、心置きなく見て楽しんでいます。

【アートのある暮らしの魅力とは?】アートコレクター石鍋博子さん(ワンピース倶楽部代表)に聞きました!   桑久保徹さんの作品

 

―作品にはそれぞれ思い入れがあるんでしょうね。

作品を見ると、色々な記憶とリンクします。
たとえばこれ(右写真)は、母が亡くなった2008年に買った、桑久保徹さんの作品。
本がたくさん描かれているのだけど、母が本好きだったこともあって、どうしても欲しくて。
大きい作品なので、どこに飾ろうかな~と考えていたとき、2階のキッチンを使っていないことを思い出して、ここだ!と(笑)。
ここはもともと台所だったんです。システムキッチンを取り外して、飾ってしまいました。

 

―サイズもぴったりですね!それぞれの作品には、石鍋さんの歴史や想いが刻まれているんですね。
 それにしても、石鍋さんの作品を見る目は素晴らしいと思います。どのようにして目を養われたのですか?

【アートのある暮らしの魅力とは?】アートコレクター石鍋博子さん(ワンピース倶楽部代表)に聞きました! 骨董品が現代アートに寄り添う

数を見るしかないです。たくさんの作品を見る。それもただ眺めるのではなく、買うというつもりで真剣に見る。アーティストも「この人は買う気だな」とわかると、真剣に応えてくれます。

それから、以前から骨董が好きで、主人とよく骨董市に通っていました。骨董市に行くと、たくさんある中で、とりわけ光るものが見つかるんですよ。他のものとはもう全然違う!というのが分かる。

だからアートを買うようになる前から、ものへのリスペクトの気持ちはすごくありました。
そうするうちに、”ホンモノパワー” を感じる力が鍛えられたのかも!

 
―石鍋さんにとって「アートを買う」ということには、どのような意味がありますか?

アートはモノじゃなくて 「有機物」 だとよく言っています。
生きている人間が、何かを変えようとして創っている作品。
その作品から彼らの人生が見えるし、自分も一緒にそれに関わっていくかもしれないと思うと、ワクワクする!
1つの作品を買うことで、そこから様々な可能性が広がっていくのをこれまでも実感してきました。
私が作品を購入したことが励みになって、創作を続けられたからこそ今の自分がある、と言ってくれるアーティストの方もいたりして。
だから私にとっては、アートを買う=「加担している」という感じ。
よく 「ワンピース倶楽部に入ったら、もう傍観者ではいられないよ!」 と言っているのですが(笑)、ただ展覧会を見に行くのとは違い、作品を買うとなれば、アーティストの人生を変えることになるかもしれない。
もしかしたら、その後のアートシーンをも変えてしまうかもしれないんだから。

 

―そう考えるとすごい!アートは「買って終わり」ではないということですね。それでは社会全体で考えると、
 「アートを買う」ことはどんな意味があると思われますか?

すごく思うのは、今は美術館に行けば当たり前のように、素晴らしいアーティストの作品が並んでいますよね。1000円ちょっと払えば、素晴らしい作品を観ることが出来る。
でも、それはとても恵まれていることであり、当たり前と思ってはいけないことだと思うんです。
私たちが素晴らしい作品を見ることが出来る背景には、膨大なお金も苦労もあることを知らなければいけないし、ただその恵まれた環境を享受しているだけではなく、還元していくべきだと思う。
一方的に恩恵を受けるのではなく、アートを買って、ちゃんとアートの世界に還元して、循環させることが必要だと思います。そうやってまわっていくものだと思うから。

 

―なるほど。その考えは目から鱗でした・・・。

そして、アートを買うことは、日本におけるアートのレベルの底上げにもつながると思っています。
作品を見る人が、ただ何となく鑑賞するのではなく、買うという意識で鑑賞すれば、シビアにならざるを得ないでしょう?だから、買う側がきちんと育てば、必ずいい作品が残る。
そうしたことが健全に起こっていれば、全体のレベルも上がるはずだと思います。

【アートのある暮らしの魅力とは?】アートコレクター石鍋博子さん(ワンピース倶楽部代表)に聞きました! 作品一つ一つに込められた作家の想いと共に暮らす

 

―「日本人はアートを買わない」とよく言われますが、それに関してはどう思われますか?

悔しいから、そう言われるといつも返しているのだけど、たしかにアートを買う文化はあまりないけれど、それは日本人の美意識が乏しいということとは全く違う!ということ。

日本ではもともと四季があって、家の中にあえて絵をかざらなくても、窓から見た景色や、自然のすべてに美を感じられる素質があった。何も飾らなくても、日常に美は溢れていたと思うんです。
それに床の間にはきちんと掛け軸を飾るスペースがあって、そこに何を飾るかで、季節感を出したり・・・そういう文化が根付いていました。
今はそうした床の間の空間もなくなり、西洋式のコンクリートに囲まれた住環境になって、昔のように家に居ながらにして美を感じられる環境ではなくなった。もう美が無いにもかかわらず、以前と同様に暮らしている。
それが良くないんじゃないかと思います。
暮らしの中で美を感じられなくなったのに、アートがないというのは、ちょっと味気ないですよね。

 

―石鍋さんは、日本の素晴らしさについてすごく意識されていますね。お着物もとても素敵です!

日本には誇るべきものがたくさんあります。日本人が創るアート作品も、とても素晴らしいものが多い!
たとえば工芸作品なんて、世界で競争相手がいないんですよ。
あの精神性、あの面倒臭さ、あの手法・・・外国の方には、真似はできても、なかなか同じレベルでは創れないと思う。
私は最近、世界で評価されるものばかりがすごいというわけではないと思っています。
たとえば、日本画は日本独自のものだから、西洋でのルールがない。だから日本画は(スポーツでいう)オリンピックには出られないけれど、とても価値がある。
西洋で決められたルールの上で勝つことだけが本当の価値ではないと思うんです。
日本画に限りませんが、世界で決められた基準・視点ではなく、もしも神の目の視点があれば、もっと評価され見直されていいものがあると思います。
自分の中に、そんな神の視点を持つためにも、もっと色々なものを見ていきたいですね。

 

石鍋さんはとってもエネルギッシュで、好奇心旺盛で、本当に魅力的な女性。
人としても、女性としても心から憧れます。今回お話をお聞きして、たくさんの刺激をいただきました。
石鍋さん、本当にありがとうございました!

 

今回ご自宅にお伺いして驚いたのは、石鍋さんのご自宅には、本当にたくさんのアート作品が飾られているにもかかわらず、不思議と圧迫感はなく、すべてがうまく調和しているようなとても心地よい空間だったこと。
きっと、石鍋さんの審美眼や人を見る目が素晴らしいからなのだと思います。
ものの数時間で、すっかり石鍋さんの大ファンになってしまいました。

 

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ワンピース倶楽部に参加するにあたり守るべき3つのルール

(1)ワンピース倶楽部の会員は、一年の間に最低一枚、現存するプロの作家の作品を購入します。

(2)ワンピース倶楽部の会員は、自分のお気に入りの作品を見つけるために、ギャラリー巡りや、美術館巡り
   など、審美眼を高めるための努力を惜しみません。

(3)ワンピース倶楽部の会員は、各年度の終了したところで開催される展覧会で、各自の購入作品を発表しま
   す。

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メンバーは覚悟金1万円を支払って、年に1点作品を購入することがルール。
交流勉強会などは、会員でない方もビジターとして参加が可能です。詳しくは、ワンピース倶楽部WEBサイトで。

【アートのある暮らしの魅力とは?】アートコレクター石鍋博子さん(ワンピース倶楽部代表)に聞きました!

石鍋博子さん

〔プロフィール〕

非営利団体・ワンピース倶楽部代表。2005年夏より現代アートに関心を持ち、 2007年7月「ワンピース倶楽部」を設立。アート界活性化を目指し、国内外のアートフェア、美術館、ギャラリー等を廻る日々を送る。講演活動も多数。
ワンピース俱楽部WEBサイト http://www.one-piece-club.jp